昔、本当に昔
上京したての頃
知らない街で知らない人達と出会い
私は新しい生活を始めた。
見る物全てが新鮮で
毎日が刺激的で楽しかった。
そりゃあ時には嫌な事もあったけど
不安より期待が勝っていたから、特に怖くなかった。
何も怖くなかった。
何故か根拠のない自信があった。
若かったんだな。
上京するまでの私は、関西のわりと都心で暮らしていた事もあって
実際の東京に対して、都会的な感動はそこまで大きなものはなかった。
ただ、此処が首都だと思う事で、少し優越感に浸れた。
そんなもんだ。
就職した会社では
たくさんの地方出身の同期が出来た。
同期で集まる時には色んな方言が飛び交って
みんなでゲラゲラ笑ってた。
「何言っでっがわがんねーよ!」って
本当にみんなが笑ってた。
本当に楽しかった。
…ある日会社の屋上で
同期の一人と一緒になった。
二人ともたばこが吸いたくなってサボりに来たのだ。
他愛のない会話の中、彼女が呟いた。
「…東京は空が高いよね。」
…彼女の吐いた煙が風に吹かれて、雲と同化した。
その時私は、いまいち彼女が何を言っているのかわからず、曖昧な相槌を打った。
でも彼女のその何気ない一言が、何故かずっと私の心の奥底に残っていた。
…今なら良くわかる。
都会は空が高いのだ。
田舎は空が低い。
手を伸ばせば届きそうな気がするのだ。
彼女も
私も
実は都会が好きではなかったのかも知れない。
未だに都心に出て空を見上げると
彼女の事を思い出す。
パーラメントの白い煙を思い出す。
…
なんてね〜。